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神戸地方裁判所 昭和49年(行ウ)35号 判決

神戸市長田区名倉町一丁目三番地

(旧商号為岡電工株式会社)

原告

株式会社 明照電工

右代表者代表取締役

為岡利次

右訴訟代理人弁護士

林田崇

神戸市長田区大道通一丁目三七番地

被告

長田税務署長

森口峰雄

右指定代理人検事

平井義丸

右指定代理人

野口成一

中村治

奥山茂樹

杉山幸雄

主文

1  原告の主位的請求の1及び3については、いずれもその訴を却下する。

2  原告の主位的請求の2を棄却する。

3  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(一)  主位的請求の趣旨

被告が、1 昭和五〇年二月二八日付でなした昭和四八年四月二八日付原告の自昭和四六年四月一日至昭和四七年三月三一日事業年度分の法人税についての更正処分等(以下、単に第一次更正処分等という。)の取消処分 2 昭和五〇年三月五日付でなした原告の右同事業年度分の法人税についての更正処分等(以下、単に第二次更正処分等という。) 3 昭和四八年四月二八日付でなした第一次更正処分等のうち所得金額五〇万九、九八二円を超える部分およびこれを前提とする各課税処分は、いずれも、これを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

(二)  予備的請求の趣旨

被告の第二次更正処分等を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

(一)  本案前の答弁

主文1、3項同旨の判決

(二)  本案の答弁

主文2、3項同旨の判決

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)  原告は、自昭和四六年四月一日至昭和四六年三月三一日事業年度(以下、当期という。)の法人税につき、別紙(一)の当該欄記載のとおり青色申告をなしたところ、被告は、昭和四八年四月二八日、別紙(一)の当該欄記載のとおり更正等の処分(第一次更正処分等)をした。その更正の理由とするところは別紙(一)の「更正の理由」欄記載のとおりである。

(二)  これに対し、原告は右更正の理由のうち(2)、(3)は認め、(1)を争うことにして、昭和四八年六月二七日、国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同所長は、昭和四九年九月一二日付で所得金額一一万六、四五一円の減額を認め、その余を棄却する旨の裁決をなし、右裁決は、同年一〇月三日頃原告に送達されこれに対し、昭和四九年一二月二五日、原告は第一次更正処分等の取消を求め、本訴を提起したところ、昭和五〇年二月二八日、被告は、第一次更正処分等の取消処分(以下、本件取消処分という。)をし、更に、同年三月五日、別紙(三)記載のとおりの更正等の処分(第二次更正処分等)をした。

なお、原告の当期の法人税額の確定申告から第二次更正処分等の裁決まで経過は別紙(二)のとおりである。

(三)  以上のとおり、第一次更正処分等に対しては、既に、国税不服審判所長より前記のとおり裁決がなされ、その一部が理由ありとして支持されているのである。そうすると、右裁決は原処分庁を拘束するものであるから、原処分庁である被告は第一次更正処分等を自ら取消すことは出来ないものというべきである。右の如く本件取消処分は不適法である以上、第一次更正処分等は存在するので同一事案について重ねてなした第二次更正処分等はこれ亦不適法というべく、いずれも不適法として取消を免れない。

(四)  而して原告は、第一次更正処分等の取消を求めるものであるが、仮りに、これが取消を求める利益なしとするならば第二次更正処分等の取消を求めるものである。その争点は、要するに、別紙(三)の「更正の理由」欄1の売上計上洩れの発生時期に関するものである。而して第一次更正処分等及び第二次更正処分等においては、次事業年度に計上すべき益金を当期に計上した点に違法が存在し、更に、第一次更正処分等においては何故に当期に計上すべきものであるかについての理由がなされておらず、何れにしても右各処分は違法であり取消を免れない。

(五)  よって、原告は被告に対し、請求の趣旨記載の判決を求める。

二  請求原因に対する認否

(一)  請求原因(一)、(二)の事実は認める。

(二)  同(三)、(四)の事実は争う。

三  被告の主張

(一)  本案前の抗弁

1 原告の主位的請求1については、昭和四八年四月二八日付で被告のなした第一次更正処分等を取消した本件取消処分は、原告に何等不利益を与えるものではないから、訴の利益はないものである。

2 原告の主位的請求3において、原告は、昭和四八年四月二八日付で被告のなした第一次更正処分等のうち、所得金額五〇万九、九八二円を超える部分及びこれを前提とする各課税処分の取消を求めているが、被告は、第一次更正処分等に関し青色串告書にかかる更正の理由の付記が必ずしも判例の趣旨に則っていないと認められる部分があるため、職権により、昭和五〇年二月二八日付で第一次更正処分等の取消を前記のとおり行い、新たに、昭和五〇年三月五日付で更正の具体的根拠を明示し第二次更正処分等をなしたものである。従って、第一次更正処分等の取消を求める本件訴は第一次更正処分等の取消当期中に工事が完成し引渡がなされているのに拘らず、原告が売上高に計上していない次の金額を加算したものである。

(内 訳)

((株)は株式会社を示す)

〈省略〉

(ロ) たな卸計上もれ 金二九万九、三二〇円

期末たな卸商品在高に原告が計上していないもの。

(ハ) 貸倒引当金 金八、九三二円

貸倒引当金としての適用率(電気通信事業)を原告が誤って計算しているので是正したものである。

(3) 申告所得金額から減算するもの

金二六〇万七、九六〇円

前記(2)の(イ)に対応する売上減価額を減算したものである。

(内 訳)

(イ) 万代ハイツ 金一一七万二、六一〇円

(ロ) 播磨団地 金七八万〇、一〇〇円

が行われた時以降その利益を失うにいたるものというべきである。

然るところ、原告は、被告が国税不服審判所長の昭和四九年九月一二日付裁決(以下、第一次裁決という。)を職権で取消し、更に第二次更正処分等をなしたことが裁決の拘束力に触れる旨主張する。

しかし、棄却の裁決は原処分が違法でないとするに止まり、原処分をどこまでも維持、続行すべき旨を命令する趣旨まで含んでおらず、拘束力は取消裁決についてのみ生ずると解すべきである。従って、更正理由付記の不備を理由として第一次更正処分を職権で取消したことは何ら裁決の拘束力に触れるものではない。

次に、第一次更正処分等につき一部取消の第一次裁決のあった後に、被告において、原告の所得金額及び税額を増額する第二次更正処分等をなしているが、これは第一次裁決の拘束力に触れるものではない。およそ、裁決の拘束力は、原処分をなした行政庁に対し同一事情の下に再び同一理由に基づく同一内容の処分をなすことを禁ずることを中核とする効力であるところ、被告においては、審査庁が第一次裁決の際、売上金額を減額したのに拘わらず、これに伴う売上原価及び貸倒引当金を減額しなかったことを発見したので、これを減額して原告の所得金額及び税額を増額する第二次更正処分等をなしたものであり、右の如く、処分内容において第一次裁決と異にするものであるから右裁決の拘束力に何ら触れるものではないのである。

(二)  本案についての被告の主張

原告は、主位的請求2において第二次更正処分等の取消を求めているのであるが、これは、予備的請求と同一であるので、以下、主位的請求2について述べる。

1 原告は、マンション、工場、住宅等の電気配線工事を主たる業とする法人であるが、当期の法人税について被告の第二次更正処分等にかかる所得金額は、次のとおりである。

(1) 申告所得金額 金二〇万一、七五一円

(2) 申告所得金額に加算するもの

金六九九万八、六六八円

(イ) 売上計上もれ 金六六九万〇、四一六円

(ハ) 中国ゴム工場 金五七万二、八五〇円

(ニ) 芦屋プリンス 金八万二、四〇〇円

(4) 更正所得金額 金四五九万二、四五九円

2 本件訴訟においては前記1、(2)(ロ)、(ハ)については争がなく、本件の争点は、原告の貸借対照表に未完成工事支出金として計上している前記1、(2)(イ)内訳〈1〉ないし〈4〉の工事に対応する請負金額が当期の益金に算入されるかどうかであるので、この点につき、次のとおり主張する。

(1) 万代ハイツ工事分 金三五三万五、六〇〇円

原告が大洋建設株式会社(以下、大洋建設という。)(積水ハウス株式会社(以下、積水ハウスという。)の下請)から電気工事を孫請した万代ハイツは、当該建築を元請した積水ハウスが、昭和四七年一月三一日に建築主の万代不動産株式会社(以下万代不動産という。)に引渡ししており、原告は右請負代金三五三万五、六〇〇円を昭和四六年八月から昭和四七年二月三日までの間に大洋建設に請求している。右請負代金は、当期中に工事及び引渡しが完了し代金を請求済のものであるから当期の益金(売上金額)として算入すべきである。

原告主張の昭和四七年五月一二日、一三日、一六日、一七日の工事は、完成後(昭和四七年一月三一日建物引渡し完了)に万代ハイツの入居者からUHFの受信ができないとの苦情により行われたサービス工事であって、本件の工事とは別のものである。

(2) 播磨団地工事分 金一七八万八、五六六円

阪神建装株式会社(以下、阪神建装という。)はナショナル住宅の代理店で、下請の三成工建の孫請をした原告の工事内容は、団地内住宅二七戸の建物の電気配線工事と電気器具の取付けであり、配線工事は一戸当り金七万円で電気器具代は別である。一戸の配線工事が完了し引渡しの都度、また電気器具については納入又は取付けの都度、代金を請求する約定で工事を行っている。従って、原告がその主張のように二七戸全部を一括して請負ったとしても、本工事においては、工事が完成し引渡を了した部分について、その都度代金を請求している事実に鑑み、いわゆる部分完成基準によって収益の時期を定めるべきである。

従って、原告において当期に引渡し、請求済の部分(一七戸分)に対応する請負代金一七八万八、五六六円は当期益金として算入すべきである。

(3) 中国ゴム工場の配線工事分 金一一〇万円

右工事は、中国ゴム工業株式会社(以下、中国ゴム工業という。)の新工場の配線工事であり、昭和四七年三月二六日に完成し、右請負代金一一〇万円(値引後の金額)は昭和四七年三月末日までに請求されている。従って、右請負代金は、当該工事が当期中に完成し代金を請求済であるから当期の益金に算入すべきである。

原告主張の昭和四七年四月一三日の旧工場の配線撤去工事は新工場の工事と一括して請負ったものではなく、本件の工事とは別のものである。

(4) 芦屋プリンス分 金二六万六、二五〇円

芦屋プリンス工事は、電気増設工事、点滅器移設工事及び現場工事であり、昭和四七年二月二二日に工事を始め、同年三月二五日完成し引渡したものである。

原告は、プレート(換気扇の枠)取付け未了を理由に引渡しを了していない旨主張するが、プレート取付工事はプレートを取付ける壁面の左官工事が当期内に終了しなかったため左官工事の終了時まで工事の延期を余儀なくされたもので、既に工事の全部につき実質的には当期内に完成したものとして引渡しが完了しており、かつ、その代金を芦屋プリンスの所有会社である正起産業株式会社(以下、正起産業という。)に請求しているのであるから、その工事代金については当期の収益の額に計上すべきものである。

3 被告の昭和四八年四月二八日付でなした第一次更正処分等の内容は、別紙(一)のとおりであるが、原告は、昭和四八年五月三一日提出の翌期の確定申告書において、第一次更正処分等の加算理由の(1)の完成工事分利益計上もれ金六八〇万六、八六七円を減額して当期の第一次更正処分等にかかる増差法人税額を還付(充当)するよう欠損金の繰戻しによる還付請求書を提出しており、被告も右還付請求を是認している。

従って、原告は、被告のなした第二次更正処分と実質的に同一内容をもつ第一次更正処分等を認め、翌期の処理として欠損金の繰戻しによる還付を受けており、本件第一次更正処分等にかかる増差法人税額相当は翌期に還付(充当)済である。即ち、原告は当期については被告の主張と完全に対立する事柄を主張し、一方、翌期については自らの主張に反し、被告の主張する事実を前提にして税金の還付を受けており、原告の本件における主張は明らかに信義則に反するものである。

四  被告の主張に対する認否及び原告の反論

(一)  被告主張の本案前の抗弁については、いずれも争う。

(二)  本案についての被告の主張に対する認否及び反論

被告主張の申告所得金額に加算するもののうち、売上計上もれ金六六九万〇、四一六円については争い、次の如く反論する。

1 万代ハイツ工事分

右工事は、当期内に完成したものではない。昭和四七年五月以降も工事が残っており、五月一二日、一三日、一六日、一七日の各日に原告より作業員を派遣して工事をさせている。これはビル本体の壁の仕上げが遅れたり、足場がはずしていない分などがあったため、アンテナ工事に着手出来ず、為に原告の工事が遅れたものである。

右の状況であるから元請である積水ハウスが昭和四七年一月三一日に建築主に万代ハイツを引渡したとの事実はあり得ないことである。少なくとも、原告が請負った工事に関する限り、当期には完成していないから、請負代金相当額の全額が既に入金済であっても、それは仮の計算に基くものであって、工事にミスがあれば清算しなければならない分も出て来るから当期の益金とすることは出来ない。

2 播磨団地工事分

播磨団地の請負については、建売住宅二七戸を一戸七万円の計算で総額一八九万円(但し、照明器具は別計算)で請負ったもので、昭和四七年一二月二三日が最終工事の日である。従って、部分的に完成したものがあるとしても原告としては二七戸全部を一括して請負ったものであるから、当期中に中間金として受取った金員があるとしても仮受金に過ぎないから当期の益金に算入することは出来ない。

又、被告は、当期中に一七戸が完成、引渡ずみであると主張するもその事実はない。

3 中国ゴム工場分

中国ゴム工場に関しては、会社工場の移転に係るものであって、新工場の配線工事と、旧工場の配線撤去工事を一括して請負ったものである。ところが、中国ゴム工業側の都合で昭和四七年四月一二日まで送電されていたので、旧工事の配線撤去工事は同月一三日にせざるを得なかった。

従って、請負工事全体が未だ完成していなかったから、昭和四七年三月締切で金一一〇万円の請求をなし、同年四月一五日手形で入金した事実があるとしても、これを当期の益金に計上することは出来ない。

4 芦屋プリンス分

被告は、芦屋プリンス現場工事が昭和四七年三月二五日に完成したと主張するが、芦屋プリンス用の照明器具や、電気部品を三月下旬に至るまで仕入れた事実があり、被告の主張は事実に反するものである。左官工事が遅れていたため外部の工事が一部遅れ、昭和四七年五月一八日に外部カバー取付工事を了して請負工事が完成したのである。

5 被告の主張の(二)3については、昭和四八年五月三一日提出の翌期の確定申告書において被告主張のとおりの記載をなしたこと、欠損金の繰戻しによる還付請求をなしたこと、右是認通知を受けたことはいずれも認める。

然し、原告が翌期の法人税の申告に関し、右の措置をとったのは、その直前である昭和四八年四月二八日付で本件の第一次更正処分等がなされた。これに対し原告は本訴で争ったのであり、原告としては本件工事請負代金の計上時期は当期ではなく翌期であると確信しているが、現実には更正処分の執行停止は出来ないから、一応、右更正処分どおりの納税をしなければならないのである。ところが、第一次更正処分等を前提とすると翌期においては、欠損金が発生するので右の如き措置をとったに過ぎないのであり、それは被告の第一次更正処分等を是認したためでは決してない。

そもそも、行政処分は当然無効の場合を除き取消されるまでは有効であるから、昭和四八年五月三一日の時点においては、第一次更正処分等を有効なものとして、これを前提として申告をなすのは当然というべきであり、本訴と右措置とは何ら矛盾するものではないことは明らかであり、これを信義則違反と主張する被告の主張こそ失当というべきである。

第三証拠

原告

1  甲第一号証の一ないし三、第二号証の一、二、第三号証の一ないし四、第四ないし第六号証、第七号証の一ないし三、第八ないし第一一号証

2  証人鍵野昭、原告代表者本人

3  乙第一号証、第二号証の一ないし三、第三号証、第四号証の一ないし四、第五号証の一ないし五、第六号証の一ないし九、第七ないし第九号証、第一〇号証の五、第一一号証の四、第一二号証の六、第一三号証の三、第一四号証の三、四、第一五号証の三、第一六号証の二ないし四、第一七、第一八号証の各一、二、第二一号証の一ないし六三、第二二号証の一、二の成立は認め、その余の乙号各証、及び検乙号各証の成立は不知

被告

1  乙第一号証、第二号証の一ないし三、第三号証、第四号証の一ないし四、第五号証の一ないし五、第六号証の一ないし九、第七ないし第九号証、第一〇号証の一ないし五、第一一号証の一ないし四、第一二号証の一ないし六、第一三号証の一ないし三(但し乙第一二号証の五と乙第一三号証の二は同旨)、第一四号証の一ないし四、第一五号証の一ないし三、第一六号証の一ないし四、第一七ないし第二〇号証の各一、二、第二一号証の一ないし六三、第二二、第二三号証の各一、二、第二四号証、第二五号証の一、二

検乙第一号証の一、二、第二号証

2  証人花沢規矩男(第一、二回)、同西浜温夫

3  甲第一一号証の成立は認め、その余の甲号各証の成立は不知

理由

第一主位的請求について

一  本案前の抗弁について

原告は、当期の法人税につき、別紙(一)記載のとおり青色申告をなしたところ、被告は、昭和四八年四月二八日、別紙(一)記載のとおり第一次更正処分等をなし、これに対し、原告は、国税不服審判所長に対し第一次更正処分の更正の理由(1)のみについて審査請求をなしたこと、同所長は、所得金額一一万六、四五一円の減額を認め、その余は棄却する旨の裁決をしたこと、これに対し、昭和四九年一二月二五日、原告は、第一次更正処分等の取消を求め、本訴を提起したところ、本訴係属後の昭和五〇年二月二八日、被告は第一次更正処分等の取消処分(本件取消処分)をし、更に、同年三月五日、第二次更正処分等をしたことについては当事者間に争がない。そして、成立に争のない乙第三号証、第四、第五号証の各一ないし四、第一七号、一八号証の各一、二によれば、被告は、第一次更正処分等の更正決定通知書に記載されている理由の附記において法所定の附記理由として不備があることを認め、前記のとおり、第一次更正処分等を取消すとともに第二次更正処分等を行ったのであるが、右の附記理由については、別紙(三)記載のとおり、更正の根拠について、原告記載の帳簿との関連において、原告の諸帳簿の記載や、取引先の調査結果等に基き当期益金に加算する旨を明示し、売上計上洩れについてはその具体的根拠を示したこと、そして、売上計上洩れ分については、審査庁の一部減額の裁決のとおり、万代ハイツ工事分については金四万五、〇五〇円、播磨団地工事分については金七万一、九〇一円を売上金額よりそれぞれ減額し、芦屋プリンス工事分については右裁決により指摘のあった計算誤りの金五〇〇円を増額したのであるが、偶々審査庁が売上金額を減額した際、これに伴う売上原価及び貸倒引当金を減額していなかったことを発見したので、これを減額して第二次更正処分等をなしたこと、その結果第二次更正処分等は、第一次裁決において認容された所得金額、納付すべき税額、及び過少申告加算税等においてその額は上廻ることになったこと、なお、第一次裁決においては、前記の如く、売上金額について一部減額が認められたに止まり、理由不備の点については、原告より不服の主張もなく、右裁決にはこの点については触れることがなかったこと、そこで、原告は、昭和五〇年五月二日国税不服審判所長に第二次更正処分等の取消を求めて審査請求をしたところ、昭和五二年七月六日付をもって審査請求を棄却する旨の裁決があったこと、以上の事実が認められ、他にこれに反する証拠はない。

右事実によれば、原告は、被告に対し第一次更正処分等の取消を求めて本訴を提起していたところ、被告は、昭和五〇年二月二八日に至り訴訟で攻撃されている第一次更正処分等の瑕疵を是正するため、第一次更正処分を取消し、同年三月五日、第一次裁決にもとづき第二次更正処分等をなし、附記理由の不備な点を補完したということができる。そうすると、右事実関係によると、昭和五〇年二月二八日の本件取消処分は第二次更正処分等を行うための前提手続として第一次更正処分等を取消しただけにすぎず、何等原告に不利益を与えるものではないから本件取消処分の取消を求める訴の利益がないというべきである。原告はこの点について第一次裁決の拘束力により被告は、自ら第一次更正処分等を取消し、第二次更正処分等をなすことは出来ないものであると主張するも、右事実によれば、第一次裁決においては原告においては理由不備については不服の主張はなく、また裁決においてもこの点については何等触れるところはなかったのであるから、右裁決の拘束力は理由不備の点には及ぼさないものというべく、而して、右裁決後においても、被告において、第一次更正処分等に法所定の附記理由において不備があった場合、これを再更正するため第一次更正処分等を取消すことは何等妨げられるところがないといわねばならない。

次に、第一次更正処分等につき一部取消の第一次裁決のあった後に、被告は、原告の所得金額及び税額を増額する第二次更正処分等をなしているが、これが裁決の拘束力に反するかどうかについて判断する。

およそ、裁決の拘束力を認める所以のものは、審査庁において原処分が違法又は不当であるとしてその処分を取消したとしても、それだけでは審査請求人の権利救済に充分でないところから同一理由にもとづく同一内容の行政行為の繰返しを禁止し取消、変更された処分と直接関連して生じた違法又は不当な状態を除去し原状回復義務を明らかにしたものであるところ、前記事実によれば、第二次更正処分等においては、第一次裁決において認容された所得金額、納付すべき税額及び過少申告加算税においてその額を上廻ることになったのであるが、上記各金額が増加したのは、第一次裁決において原告の売上金額を減額したのに拘らず、これに対応する売上原価を減額することを失念していたのでこれを是正し、また、貸倒引当金の計算誤りを訂正したために所得金額、これを前提とする課税額が増加したものであることが認められる。そうすると、第二次更正処分等の増額は、第一次裁決が不当として是正した処分内容に抵触するものではなく、一部において、右是正された内容に則し、計算をし直し、他の一部においては審理の対象とならなかった部分について数字を是正して追加的に更正したものである。従って、被告において右の如く増額更正したとしても、何等、裁決の拘束力に触れないものと云うべきである。而して、一部棄却の裁決は、棄却された部分については、これらの部分が違法でないとするにとどまり、これを適法、有効なものとして維持しなければならない理由がないから、棄却部分について、前示のとおり、附記理由を補備するため再更正処分をなすことは何等妨げないところと解すべきである。この点に関する原告の主張は独自の見解にもとづくものであり採用できない。

このようにして、第一次更正処分等が適法に第二次更正処分等によって取消されたものと認めるべきであるから第一次更正処分等の取消を求める訴はその取消の行われた時以降、訴の利益を失うに至るものというべきである。

そうすると、原告の主位的請求1及び3については、いずれも訴の利益を欠くものというべく、何れも却下を免れない。被告の抗弁は理由がある。

二  そこで、原告主張の主位的請求2の本案について判断する。

ところで、主位的請求2は、原告主張の予備的請求と同一であるので、予備的請求は主位的請求として主張されたものとして、以下、主位的請求2について判断する。

原告が、マンション・工場・住宅等の電気配線工事を主たる業とするものであるところ、原告の当期の法人税について、被告が第二次更正処分等において、前記事実欄三、(二)、1記載のとおり所得金額について第二次更正処分等をしたこと、第二次更正処分等のうち売上計上洩れ金六六九万〇、四一六円と計上された金額を除き、その余の棚卸し計上洩れ金二九万九、三二〇円、貸倒引当金八、九三二円、申告所得金額から減算する金額二六〇万七、九六〇円については、原告において明らかに争わないので自白したものとみなす。

そこで、被告が当期に計上すべきであると判断した、右売上計上洩れ分について、以下、各工事別に各売上金額の当否について判断する。

(一)  万代ハイツ工事について

原告は、万代ハイツ工事は、当期内に完成したものではなく、昭和四七年五月一二日、一三日、一六日、一七日にも工事を行っており、従って同日まで継続していたものであると主張し、被告は、本件工事は、当期内に完成したものであり原告主張の五月一二日から一七日までの工事はUHFの取付工事でありサービス工事であると主張する。

証人花沢規矩男の証言(第一回)とこれにより真正に成立したものと認められる乙第一〇号証の二ないし四、第一一号証の一ないし三、証人西浜温夫の証言とこれにより真正に成立したものと認められる乙第二四号証、第二五号証の一、二及び万代ハイツ屋上のテレビ・アンテナの写真と認められる検乙第一号証の一、二、原告代表者本人尋問結果(後記措信しない部分を除く。)とこれにより真正に成立したものと認められる甲第一、第三号証の各一ないし三を総合すると、原告は、昭和四六年一〇月八日頃、万代ハイツ工事の下請業者大洋建設より右工事の電気工事を請負ったこと、万代ハイツの建築主は万代不動産、元請業者は積水ハウスであったこと、右元請業者積水ハウスは昭和四七年一月三一日万代ハイツの建築工事を完成し、建築主万代不動産にこれを引渡しており万代不動産は同年二月から万代ハイツの賃貸借を開始していること、原告も請負にかかる本件電気工事の請負代金三五三万五、六〇〇円を昭和四七年二月三日までの間において、大洋建設に請求し、右代金は同年三月末までに領収していること、そして、原告は、万代ハイツの入居者の要望により、同年五月一二日から同月一七日までの間において、UHFの取付工事をサービス工事として行っていること、以上の事実が認められ、これに反する原告代表者本人尋問の結果の一部及び証人鍵野昭の証言は措信し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

思うに、凡そ、請負とは、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してこれに報酬を与えることを約することによってその効果を生ずる契約である。この請負契約には仕事の目的物の引渡を要するものと、物の引渡を要しないものとの二つの型態がある。そして物の引渡を要する請負による報酬請求権は仕事の目的物の引渡と同時に発生し、物の引渡を要しない請負による報酬請求権はその約した役務の終ったときに発生する。してみると、請負契約による収入の確定する時期は、一般原則として引渡を要するものについては、その目的物を注文者に提供する時であり、引渡を要しないものについては、仕事の完成の時であるということができ、これは会計原則上のいわゆる工事完成基準に一致する。

これを本件についてみるに、原告の請負にかかる本件電気工事は仕事の目的物の引渡を要するものであるところ、原告は請負契約の目的物である電気工事を当期中に完成して引渡しが完了し、右請負代金三五三万五、六〇〇円も請求済であるから、右金額は当期の益金として算入すべきものというべきである。原告主張の昭和四七年五月一二日ないし同月一七日の工事は万代ハイツ居住者の要請にもとづきなしたUHFの取付工事であって、単なるサービス工事と認められ、本件工事の完成時期を左右するものとは認められず、この点の原告の主張は採用できない。

(二)  播磨団地工事について

原告は、播磨団地の電気工事は、建売住宅二七戸を一括して請負ったもので、工事が完成したのは昭和四七年一二月二三日である。従って、部分的に完成したものがあるとしても右の如く、一括請負であるから当期中に中間金として受取った金員があるとしても仮受金に過ぎず当期の益金に算入できないと主張し、被告は、原告は約定にもとづき工事の完成の都度、月単位でその請負代金を請求しており、かかる場合にはいわゆる部分完成基準にもとづき、原告の引渡及び代金請求済の部分(一七戸)に対応する請負代金一七八万八、五六六円は当期益金として算入すべきであると主張する。

成立に争のない乙第二一号証の一ないし六三、第二二号証の一、二、証人花沢規矩男の証言(第一回)とこれにより真正に成立したものと認められる乙第一二号証の二ないし五、第一三号証の一、二、及原告代表者本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)を総合すると、本件工事は、宅地付分譲住宅団地を建設していた阪神建装より分譲住宅の建築工事を請負っていた三成工建より原告が請負った電気工事関係であるが、右工事内容は、団地内住宅二七戸の電気配線工事と電気器具の取付であり、配線工事は一戸当り金七万円であり、電気器具代はこれとは別とし、一戸の配線工事が完了し引渡の都度、また、電気器具については納入又は取付けの都度代金を請求する約であったこと、そして、原告は、右約定にもとづき、当期中に一七戸の配線工事を完成してこれを三成工建に引渡し、右工事代金計金一一九万円を請求し、その他の照明器具等の電気器具代は納入又は取付けの都度請求しその請求金額は計金五九万八、五六六円となっていることが認められる。右認定に反する証人鍵野昭の証言と原告代表者本人尋問の結果の一部は措信し難く、他にこれを覆すに足る証拠はない。

ところで建設請負等において前示のとおり工事完成基準によって収入の帰属時期を決定するのが原則であるけれども、一の契約により同種の建設工事を多量に請負ったような場合で、その引渡量に従い工事代金を収入する旨の特約がある場合には、その建設工事等の全部が完成しないときにおいてもその事業年度において引渡した建設工事等の量又は完成した部分に対応する工事収入をその事業年度の益金の額に算入しその工事収入に対応する工事原価の額をその事業年度の損金の額に算入する(部分完成基準)ことが相当である。これを本件について見るに、原告は三成工建との間で、二七戸につき、配線工事及び電気器具の取付等を請負ったものであるが各戸の電気工事は独立して他と直接の関連がなく、工事代金も各戸毎に計算をなしうるものであり、従って原告は、各戸の配線工事が完成、引渡の都度、そして、電気器具については取付又は納入の都度その代金を請求しているのであるからかかる事実関係のもとにおいてはいわゆる部分完成基準によって当期内に完成引渡した部分に対応する請負代金を当期の収入に算定するのが相当というべきであり、一括請負であるとの事実は右基準をとるについて何等の妨げとなるものではない。そうとすれば、二七戸のうち一七戸が完成、引渡し、その余は当期内に未完成であるとするも、被告において、原告の完成引渡しにかかる一七戸分の配線工事代金及びその他の電気器具代合計金一七八万八、五六六円を当期の益金として計上したのは相当であって、何等違法の点はなく、原告のこの点の主張は失当であるというべきである。

(三)  中国ゴム工場工事について

原告は、中国ゴム工場工事については、新工場の配線工事と旧工場の配線撤去工事とを一括して請負ったものであり、旧工場の工事は中国ゴム工業側の都合で昭和四七年四月一三日に工事を実施したものであり、従って、請負工事全体は当期中に完成していなかったと主張し、被告は、旧工場の配線撤去工事と新工場の配線工事は別工事であり、新工場の配線工事は当期中に完成したので当期の益金に算入したものであると主張する。

成立について争のない乙第一四号証の三、証人花沢規矩男の証言(第一回)とこれにより真正に成立したものと認められる乙第一四号証の二、第一五号証の一、二、証人鍵野昭の証言により真正に成立したものと認められる甲第六号証、第七号証の一ないし三、原告代表者本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)とこれにより真正に成立したものと認められる甲第五号証を総合すると、原告は中国ゴム工業との間において、昭和四七年二月頃、新工場の配線工事を請負金額一一〇万円で請負い、これを同年三月二六日頃完成してこれを引渡し、同月末迄に右請負金額の請求をしていること、その後、原告は中国ゴム工業との間において旧工場の配線撤去工事等を請負い、これを完成し右代金一万七、〇〇〇円を同年四月一三日に請求していること、以上の事実が認められこれに反する原告代表者本人尋問結果の一部は措信し難く、他にこれを覆すに足る証拠はない。

右事実によるときは、新工場の配線工事と旧工場の配線撤去工事は別途工事というべく、そうすると、当期内に完成引渡した新工場の配線工事に対応する請負代金を当期の収入として算入するのが相当というべきであり、従って、被告が、新工場の配線工事請負代金一一〇万円を当期の益金として計上したのは相当であり、何等違法ということを得ず、原告のこの点の主張は失当というべきである。

(四)  芦屋プリンス工事について

原告は、芦屋プリンス工事は左官工事が遅れたため、原告の施工する外部の工事が一部遅れ、昭和四七年五月一八日に外部カバー取付工事を了して請負工事が完成したものであると主張し、被告は、本件工事は同年三月二五日完成し、引渡済である、プレート取付工事は原告主張の日になされているが、左官工事が遅れたため延期したものに過ぎず、本件工事は実質的には当期内に完成しているものであると主張する。

成立に争のない乙第一六号証の二、三、証人花沢規矩男の証言(第一、二回)とこれにより真正に成立したものと認められる乙第二三号証の一、証人西浜温夫の証言とこれにより芦屋プリンス内の換気扇の写真であると認められる検乙第二号証、原告代表者本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)とこれにより真正に成立したものと認められる甲第九、第一〇号証を総合すると、原告は、昭和四七年二月頃、正起産業より芦屋プリンスの電気工事を請負い、事務所関係の電気工事を同月末迄に完成して引渡し、同月末締切で右工事代金二六万一、七五〇円を請求し、更に、同年三月八日頃までに電灯増設工事及び点滅器移設工事を完成して引渡し右工事代金四、五〇〇円を同日請求していること、なお、右事務所関係の電気工事が右の通り完成したのであるが、唯換気扇の取付自体がなされたけれどもプレート取付のみが、他の工事請負人による左官の壁の仕上げ作業が遅れたため、遅延していたところ、右左官工事が完成したので、同年五月一八日右プレート取付作業を行ったこと、右作業は壁面に八ないし一〇ケの枠をネジで締めて取付けるもので一ケの枠の取付に一〇分足らずの時間を要すること、以上の事実が認められ、これに反する証人鍵野昭の証言及び原告代表者本人尋問の結果は措信し難く、他にこれを覆すに足る証拠はない。

前示の工事完成基準にあっては収入は原則として目的たる契約事項全部の完成(引渡を要するものについては引渡)のときの事業年度に帰属するとすべきであるが、当該事業年度内に契約の大部分が完成され、かつ、その引渡しが終了し代金の請求もなされていながら、なお、一部が未完成となった場合において、右未完成部分が全工事中の極めて僅かの部分割合にすぎず、かつ、付随的、仕上的な内容のもので、極めて僅かの時間内に処理することができ、右事業年度に引続き容易に完成し得るものと認められるような場合にあっては右工事の収益は当該事業年度に帰属するものと解するを相当とする。これを本件についてみれば、前記認定事実によれば、電灯増設工事及び点滅器移設工事は当期内に完成し、引渡を了し、当期内に右工事代金四、五〇〇円を請求しており、事務所関係の工事については換気扇の取付が終りながら、他の業者の請負った壁の仕上げ作業が遅れたため、プレート取付工事を残して原告の請負工事は実質的に完成し、その引渡を了し、右工事代金二六万一、七五〇円を当期内に請求していることを併せ考えると、右程度の工事の残りがあったとしても工事全般は当期内に完成、引渡を了したものと認定するに妨げなきものというべきである。そうすると、被告が本件工事代金計金二六万六、二五〇円を当期の益金として計上したのは相当であり、何等違法の点は認められず、原告のこの点の主張は失当であり採用できない。

第二予備的請求について

前示説示のとおり、原告の予備的請求は、主位的請求と同一であるから予備的請求としては無意味であり、これについての判断を要しないことは明らかである。

以上によれば、被告が第二次更正処分等において万代ハイツ工事他三件の工事関係について売上洩れとして合計六六九万〇四一六円を当期の益金に計上し所得金額を算定した点については何等違法の点は存しない。そうすると、原告の第二次更正処分等の取消を求める主位的請求2(予備的請求と同一)はその余の点について判断するまでもなく失当として棄却さるべきである。

第三結論

以上の次第であるから、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中村捷三 裁判官 住田金夫 裁判官 池田辰夫)

別紙(一)

自 昭和46年4月1日

至 昭和47年3月31日

〈省略〉

〈省略〉

別紙(一)

〈省略〉

別紙(二)

〈省略〉

別紙(三)

自 昭和46年4月1日

至 昭和47年3月31日

事業年度分

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別紙(三)

翌期首現在の利益積立金額について

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(3)枚のうち(1)枚目

〈省略〉

(3)枚のうち(2)枚目

〈省略〉

(3)枚のうち(3)枚目

〈省略〉

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